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サマリタンズホームページより/第3号

 

2014年3月5日発行

■初めての人

―― ある作家がサマリタンズのボランティアとしての経験を語る ――

解題:以下に訳出したものは、Karen Hoganという女性のライターが、イギリスの大衆オンライン新聞 Mail Onlineに投稿した記事である。サマリタンズのホームページではないのだが、サマリタンズの傾聴がどのようなものであるのかを知る上で参考になる記事なので訳出した。なお、ここに描かれているジェームズの話は、サマリタンズにかかってくる電話の内容を元に作られたフィクションだと、記事の末尾に記されている。


 経済の悪化によって、金銭問題を抱えた人たちからのヘルプラインへの電話は増えている。Karen Hoganは、サマリタンズのボランティアとして活動した頃のことを思い起こして、記憶に残っているある男性の悲痛な物語を語っている。

 サマリタンズのボランティアとして活動をはじめて3週目に、私は一人の男性(仮にジェームズと呼んでおこう)からの電話を受けた。「もしもし」、その後しばしの沈黙があった。彼が話そうとしていることは様子から分かったので、そのまま話し始めるのを待っている。時々、「あなたが話したくなったときのために、私は ここにいるのよ」と言いながら。沈黙は続く。私たち二人は電話で繋がっている。私は自分の名前を告げ、「あなたがお話しできるようになるまでここにいます」と繰り返した。やがて彼は、静かに自分の名前を名乗り、その後再び長い沈黙が続く。「大丈夫ですか。ジェームズ」、私は声をかける。

 そして彼は、ゆっくりと心を開いて話し始める。長い間自分の気持ちを誰にも分かってもらえなかったという。自分があるべき姿でないことを誰かに話すことは、恥ずかしいと感じている。30代の頃には、家計を支えるべきだったとも。彼の言葉はばらばらで、私には彼のもがいている心の痛みを感じることができる。

 やがて言葉は重く、そして口早に出るようになる。彼は自分が家族を裏切ってしまったと語る。自分が解雇されていたのに、その事実を妻に隠していて、仕事に行くふりをして、長い時間、ただただ歩きまわっていた、と。借金、クレジットカードの支払の請求と、絶え間ない携帯電話の呼び出しが付きまとっていて、将来が見えなくなっていた。彼の妻は、感情的には彼から拒絶された状態であったが、封の切られていない封筒を見つけて、自分たちの置かれた状況をわかってしまった。妻は彼に対して、一緒に努力しようと頼んだが、彼はもはや話し合うことは出来なかった。妻は絶望し、子供を連れて家を出た。彼はずっと長い間どこか遠くへ行きたいと言った。私は彼に尋ねた。「ジェームズ、どこに行きたいの?」。彼はしばらく間をおき、そして、「自殺したい」と言った。

 サマリタンズのトレーニングの一部に、コーラーがすでに自殺するための具体的な計画を立てているかどうかを尋ねることがあり、それによって彼ないし彼女がどれくらい自殺する危険があるのか事情を推し量るというものがある。ジェームズは私に自分の計画を語り、自分の死はみんなにとって安心するものであると語った。つまり、自分を一人前の男とも、稼ぎ手とも思わなくてもよくなるからである。彼は、何度も何度も「何になるのだろう」という言葉を繰り返した。

 その電話の間に、たくさんの思いが私の頭の中を駆け巡った。借金について援助する様々な機関があることを知らせたいという気持ちはあった。しかし、私は彼の話にじっと耳を傾ける必要があった。彼の気持ちが流れ出るままに、怒りや、葛藤や、痛みや、絶望を吐き出させるようにした。私は彼から流れ出てくるものを止めたくなかった。

 私は、その数年前に親しい人、父を自殺によって失うという経験をしていた。父は死ぬ前に、自ら話をしようとしていたが、周りの人々は何をすべきとか、一緒に協力しようと頼んだりした。おそらく私自身もそのような言葉を彼に言っていたのだろう。時に、我々が助けになると考えることは、無力感を感じていて打ちひしがれている人に対しては、ただプレッシャーをかけることになってしまう場合がある。

 ジェームズは眠ることが出来ないと語り、自分は眠り続けることを望んでおり、目を覚ますことは望んでいないと言った。子供たちにとっては、父親がいない方が暮らしは良くなるであろうとも。彼は叫び、すすり泣きは激しくなる。私はそれが収まるまで静かに聴いていた。私は、オープンなやさしい質問をするように努めた。「友達や知り合いのなかにあなたの気持ちをわかってくれる人はいるの? かかりつけの内科医に相談して、不眠について話してみることはどうかしら?」ジェームズは笑って、自分は典型的な一人前の男であり、何年も医者に診てもらったことはないと言った。我々は二人とも笑い、そして笑の中にほっとするものがあった。「サマリタンズに立ち寄り、話をする気はないですか?」と尋ね、私たちは毎日24時間電話で対応していると話した。彼にその気持ちがあれば、借金に関する相談機関を紹介することは出来るとも伝えた。電話が終わったとき、午前3時であった。

 サマリタンズでは、ボランティアどうしがお互いに支え合うということは大切なことであるが、全ての個人情報は支部の中に止められ、秘密は完璧に守られている。

 私は、この先ジェームズに何が起きたのかを知ることはないであろうが、彼からの電話は私自身の父親の死についての記憶を呼び覚ました。私の父もまた、負債を負い、その負債が急に増えていったとき、家族を裏切ることになった。彼は自分の自殺のことを語りはじめたのだが、私たちの誰も実際に自殺するとは信じられなかった。私たちはなんと間違っていたのだろう。あらゆる自殺の恐れというものは、耳を傾けて聞いてもらい、外に吐き出されるべきである。私の父が自殺したとき、それは私には耐えがたいほどの大きなショックであった。父は唯一自分が出来る方法で私たちに予告していたのだったが、私たちは彼の話を聴こうとはしなかった。

 サマリタンズでは、ボランティアに加わる前に6週間の集中的な研修コースを受ける。それは、傾聴のための技術を教えるコースとしては恐らく世界中で最高のコースの一つだろう、と敢えて言うことができる。そこでは自分自身や他の人々のことについて学ぶが、それはその後の人生の助けになる。サマリタンズは常時ボランティアを募集しているが、誰もが適性があるとして受け入れられるわけではない。求められているのは、厳しい批判をせず、傾聴し、必要なときにオープンな質問をすることができる人である。階級ないし信条は重要ではなく、問題は共感する能力である。ひとりのボランティアとして、ほとんどの場合、コーラーに寄り添って歩み、歩調を合わせる。もちろんすべての電話が自殺の電話ではない。つらい別離、愛するペットの死、職場や学校におけるいじめに関係しているかもしれない。混乱し、心に閉じ込められた思いや、深い悲しみ、絶望の結果、考え方が混乱し、時に自殺したいという考えに辿りついてしまうかもしれない。

 私がサマリタンズでボランティア活動に加わったのは、父の死から何年も後のことであった。私の父のように闘っている人たちに、何かを与えたいという欲求があった。私は父の話を十分に聴けなくて、話すように励ますことが出来なったことについて、未だに罪の意識を持っていた。それはとても簡単なことであった。つまり偏見なしに、非難することもなく、話し手に自分の感情を表現する時間と場所を与えることである。

 主として仕事のために、加わって2、3年後にサマリタンズを去ったのだが、あるいは私はそこから離れて自分が学んだこととか、私自身について発見したことを考える必要があったのかもしれない。自殺を考えている人、そして最も暗い時間の中であなたに手を握って欲しいとほのめかしている人のために、そこには特別な種類の人間がいる必要がある。そのようにして人から信じられていることは、不思議な誇らしい気持ちになる。もしその人たちの考えの中にあなたを入り込ませる方法があるとすれば、そしてたとえわずかであったとしても、その人たちの心の底に生きたいという希望の光があるとすれば、我々はそれを掴まえて、死ではなく生きることについて話し合うことを促そうとする。

 ジェームズは頻繁に私の心の中に現われ、自らの問題の唯一の解決策に見えたことに彼を追いやった圧倒的な混乱について、私は問いかける。サマリタンズは、ある人を自殺に追い込む理由というものは、通常はひとつだけではないことを良くわかっている。私が父の死を回想するとき、ほんの僅かの慰めになるのは、父はその瞬間には自分にとって正しいと思えることをしたのだと考えることができること、つまり彼は生と死の間の最後の選択において、自己決定する権利を与えられていたと考えることができることである。一日に何度も、私はサマリタンズのトレーニングのことを思い出す。それはいつも私の傍らにいて離れないであろう。

出典:http://www.dailymail.co.uk/home/you/article-2061841/Samaritans-One-writer-recalls-experience-volunteer.html



■死にたい

解題:サマリタンズのホームページは、コーラー(かけ手)、相談員を希望する人、鉄道・学校など地域社会、活動への支援、メデイアなど、呼びかける先それぞれにページを用意しています。「死にたい」は、「コーラー」に向けたページの一項目で、?のある文はコーラーが抱くと予想される疑問です。


 「落ち込んで、混乱し、疎外され、泣き暮らし、惨めでした...私はサマリタンズに連絡することを決心しました。話を聴いてもらい、誠意をもって対応され、感情的に支援されています、週7日、1日24時間を通じて。だれかが寄り添ってくれている感じです。」

 自殺したいという気持ちは、複雑で、恐ろしく、そして混乱したものです。私たちは、自殺思考、感情、そして実行を考えている人に、耳を傾ける経験を積んでいます。私たちはあなたと共に困難な場に入ってゆくことを恐れません。私たちは、あなたに幾つかの考えがあっても、あるいは、自殺する明確な計画があっても、誠意を持ってあなたに向き合います。

話はどのように支援になるのですか?
 あなたが絶望の底にある時、あるいは怒りで切れそうな時、その瞬間からそれを克服するための支援をします。あなたの思いにあなたが納得する、あるいは、あなたが望むなら他の支援の方法をいかに見つけるか、の手助けをします。

 「もし彼らがあなたを支援しないなら、単なる電話ということになります。彼らに電話したことをだれかに話す必要はなく、全て匿名です。やってみる価値があります。

 あなたがまさに自殺しようとしていなくても、計り知れない痛みと悩みを背負っています - 殆ど堪え切れないほどの - そして、サマリタンズにはあなたの苦痛を和らげる素晴らしい力があります。」(訳者注:「 」の中はサマリタンズの組織としての見解が述べられています。彼らとは相談員です)

私は自殺願望なのだろうか?
 あなたが死にたいと思っているのは確かかも知れない。しかし、怖い思いがあり実行するのを恐れていることもあるでしょう。

 おそらくあなたは死にたいと思っていない、しかし、悪夢から何としても逃れたい気持ちで、他の逃れる方法が見えないのです。

 おそらくあなたはあらゆる事をやってみた。しかし、状況は変わらなかった。生きようが死のうが気にしないかも知れない。そして、おそらくあなたはさらに危ない橋を渡り、自暴自棄になるかも知れないのです。

 あなたは自殺したいと自分から思わないかもしれない、しかし、自分を殺せば死を受け入れることになります。多分、あなたは死を苦痛からの解放、または自分を自由にするものと思っているのです。

 あなたは、なぜ死にたい気持ちなのか分らないのかも知れない。そして、それについて何をすべきか、完全な無力感を抱いているのかも知れない。

 私たちは、これら全てについて、あなたと話しができます。

あなたは私の自殺を止めますか?
 私たちはそうする事を望みます。私たちと話す事を通じ、あなたは自分の置かれている状況を、異なった観点から見られるようになるでしょう。
 しかし私たちは、命を絶つことを含めあなた自身が決意する自由を尊重します。私たちは、あなたが自殺の実行中でも、あなたとの話しを続けます。

私が死にたいと思っていることを、誰かに話しますか?
 私たちは、あなたにお願いされなければ、話の内容を誰かに話すことは決してありません。電話があったことさえ言いません。私たちは救急サービスに連絡しません。但し、以下の幾つかの場合は除きます。

・あなた自身で呼べず、私たちに呼んで欲しいとあなたがお願いする時
・あなたが連絡先、住所、または電話番号を既に私たちに伝えていて、電話中に話しが支離滅裂になったり、あるいは意識がなくなった時
・あなたが支所の一つに来ていて、身を危険にさらすような自傷行為をした時

救急車を呼んで欲しいと言った場合はどうなりますか?
 もし、私たちに救急車を呼んで欲しいと話せば、私たちはあなた自身で呼ぶように勇気づけます。それが助けを得る最も手早い方法だからです。

 しかし、やはり私たちに呼んで欲しいと思う時は、私たちが呼ぶことはできます。(訳者注:救急サービスや救急車への対応はサマリタンズのやりかたです)

出典:Home > How we can help you > What to speak to us about > I want to kill myself



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