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サマリタンズホームページより/21号

 

2019年1月17日発行

■不適切な電話の定義と分類

解題:7号、9号、11号、14号に引き続き、ノッティンガム大学による研究報告書「サマリタンズが行う電話およびEメールによる情緒的援助サービスの評価」の第6章から、「不適切な電話をどう扱うか」に関する部分を抄訳した。 「寂しいから」、あるいは「誰かと話がしたいから」という理由でかけてくる掛け手にどう対処するかは、私たちと同様に、サマリタンズのボランティアたちも頭を悩ませている問題であることがよくわかる。そうした電話にどう対処すべきかは、私たちも一度じっくり考えてみてもよいのかもしれない。


 これまで4章と5章で検討してきたように、サマリタンズにかかってくる電話のうち、典型的な「良い掛け手」という範疇に収まるような人々からの電話は相対的に少数である。 多くの電話は、定期的に・あるいは繰り返し掛けてくる掛け手からのものであり、それらの人々はしばしば、重篤な精神疾患に冒されていたり、性的な満足感を求める人であったり、慢性的に孤独で不幸せな生活を送っている人々である。 こうした電話が適切なものであるか否かに関してボランティアはさまざまな意見を述べているが、それは、サマリタンズが提供するサービスについての各人の見方に規定されている。

 ボランティアが話題にする掛け手のよくあるタイプの一つは、おしゃべりな、そして/または孤独な掛け手である。ボランティアは、そうした掛け手をサポートすることを、長年続いているやっかいな問題だと見なしている。 そして、彼らからの電話をサマリタンズとして受け入れるべきか否かに関して、また、そうした人々と「良い対話」をすることが本当に可能なのかどうかに関して半信半疑でいる。 しかしボランティアはまた、そうした掛け手のニーズが、サマリタンズが対処できるレベルのものだということも認めている。このような理由から、こうした掛け手を組織にとって難しい問題だと見なす一方で、ボランティアはこうした掛け手を今のところ受け入れている。

 う〜ん、扱いにくい問題ですよね。だって、私たちがここにいるのは、孤独な人達にサービスを提供するためじゃないんですから。でも時には、それが事実なんだって感じがすることもありますよ。とりわけ何年にもわたって電話を掛け続けてくる人がいる場合にはね。 イライラさせられるんですが、同時に、ただ寂しいというだけで電話してくる人のことを、かわいそうだとも感じるんです。扱いにくい問題だし、難しいテーマだと思いますよ。(訳注1)

 そうですね〜、実を言うと私は(笑)、多くのこうした人達にとても同情してるんです。普通そういう人達が電話してくる時っていうのは、その人達の人生は寂しくて孤独なんですよ。何とも痛々しいです。 どこまで認めるかに線を引こうとしても、本当に難しいです。だって正しい答えなんてないんですから。サマリタンズに依存するようになることもあるし・・・。多くの場合、何かに悩んでいるわけでもないんです。 だから、まずはその人達の立場に立ってみて、でもその上で、まあ5分とか10分くらいで切り上げるようにすればいいんじゃないですか。

 ある掛け手の例を挙げてみますね。彼女はひどい寂しさにさいなまれていて、本当に孤独なんです。彼女には誰もいない。人生の中で親しい人は誰もいないんです。 そのために、うつ病になりそうなほどの深い孤独に苦しんでいるんです。だから私はその人を励まそうとするんです。

 正直に言って、そういう人たちと一日中電話で話している訳にはいかないんです。だって、そういう人達っていうのは、寂しさに怯えているだけなんですから。


 ボランティアは、なぜそうした掛け手とは話をしないかを弁明する場合には、組織としての立場を持ち出し(たとえば、「そういう人たちと一日中電話で話している訳にはいかないんです」)、 なぜそうした人々と話をするかを説明する場合には、より個人的な立場を持ち出す傾向がある(たとえば、「私は彼女を励まそうとしています」)。これはおそらく、自分たちは誰の援助をするつもりはないかを論ずるに当たっては、 組織としての立場を持ち出す方が、そうした抑制を純粋に個人的な決断として表明するよりも、サマリタンズのボランティアにとっては容易だからであろう。

 これまで示してきたデータから明らかなように、 さまざまなタイプの電話に対して示す態度においても、その扱い方においても、ボランティアの立場はきわめて多様である。それに加えて、「良い電話」を取ることに対するボランティアの取り組みをめぐる抽象的な理想像と、 定型的・日常的な電話に対するより実務的な対応との間にも違いがある。危機のさなかにいる人々に対して情緒的な援助を提供するために「そこにいる」、という組織とボランティアの信条とは裏腹に、大多数の電話は多様な性格を持っているのが現実なのだ。 これは、掛け手が通話から大きな利益を得てはいない、ということではない。

 しかしそのことは一つのジレンマを生み出す。それは、「掛け手が求める多様なニーズと期待に対してボランティアが最適な対応をするためにはどうすべきか」 という問題と、「サマリタンズの本来の任務は何かについての理解をめぐって、サービスを利用する側と提供する側の間でいかに折り合いをつけるか」という問題とのジレンマである(訳注2)。

出典:Home>About us>Our research>Independent research projects>Completed research projects>Research report:Evaluation of Samaritans EmotionalSupport Services


(訳注1)
この調査報告書を作成するに当たって研究班は、1357人の掛け手に対しインタビューを行うと共に、66人のボランティアに対しても対面または電話による個別面接を行っている。 ここに一字下げで引用されているのは、オンライン上または対面によるそのインタビューに対する回答の一部である。

(訳注2)
「掛け手が求める多様なニーズに最適な対応をする」ことを組織としての目標にする場合には、「ただ話がしたい」という電話にも真摯に対応することがボランティアの課題になる。 一方、「サマリタンズの本来の任務は自殺予防である」ことを前提にする場合には、それ以外の電話を遠慮してもらう、あるいは「ただ話がしたい」だけの電話はさっさと切り上げることが課題になる。 前者を重視すれば後者は必要でなくなり、後者を重視すれば前者は必要でなくなる。そうした両者の関係を、ここでは「ジレンマ」と呼んでいるのだと思われる。

■自殺とネット環境

解題: 現代社会ではインターネットが欠かせない時代となってきた。特に若い世代にとってネットは生活の一部であり、簡単に気持ちを吐露できる場でもある。 興味のあるサイトを簡単に検索し、閲覧できることから、一人でインターネット画面に向かう気持ちは実際よりも深く集中しがちである。 サマリタンズは自殺に関するサイトを閲覧する「自殺願望者」がそこであらゆる情報を手に入れるばかりか、本来死なずに済む命を落とす方向へと進みがちなことへの懸念と、対策をどのように打ち出しているか、この先どう取り組んでいくべきかを検証している。


 報道されているいくつかの自殺の事件で、自殺志向の人がオンラインの自殺関連の記事にアクセスしていることから、ネットにある特性は自殺を考えている人に影響を与えることがあり、この状態は近年目立ってきていることが分かった。 このことから危険情報の入手を難しくする必要性と、オンラインで精神的サポートを拡大することが必要であるとサマリタンズは確信し、公の方針を打ち出すことに繋がった。

【この記事の概要】

●サマリタンズは、弱っている人が「死に方」を詳しく案内するような自殺に関するオンラインにアクセスした時には自殺の危険をはらんでいるという事をわかっている。

●自殺を奨励するまたは幇助するようなオンラインはイギリスではすでに犯罪行為だが、これは適切に適用されなければならない。

●けれども、ウェブサイトを根本からブロック、禁止するには問題があり、達成するには現実的に限界がある。

●私達はもっと効果のあるアプローチがあることを信じる。
 (a)弱った人々をオンライン上でサポートする場を広げる
 (b)責任ある実践を展開し支援の手段を増強するよう、有名サイトを運営する組織を応援する。

●この分野の証拠が限られているので更なる調査が必要だ。

【自殺リスクのあるオンラインへの取り組み】 ―サマリタンズは何を要求しているのか?

1.
いくつかのインターネットの側面は、「死にたい」と思う人が自殺関連のオンラインにアクセスしているというケースが多く報告されているので、彼らの人生はインターネットによって自殺のリスクに影響を受けるという一面が近年目立ってきた。

 ウェブサイトには、自殺方法や自殺に関する討論、そして議論をするチャットルームで「自殺」についての詳細な情報を与える内容がしばしば含まれている。

サマリタンズは、自殺に関する(特に自殺方法の情報を与える)オンラインは、死にたいと思いながらも、何の情報も持たない無垢な人が出会った時、自殺の危険度が増すという事を認めている。

2.
  自殺幇助をするだけでなく、ある自殺情報をオンラインで公にすることも禁止されていた(1961年自殺に関する法律第2章の下でイギリスでは自殺は法律上重い犯罪行為となる)。しかし、私達はサマリタンズの働きかけによって2009年に法律の修正が行われて以降、その条例によってオンラインによる自殺に関する違反が、検挙、起訴が成功したかどうかわかっていない。
 官庁は権力を駆使して自殺幇助をオンラインでしようとしている人達を起訴しなければならない。

3.
 自殺ウェブサイト関連にあるグループによっては、政府に一歩踏み込んでそれらのサイトをブロックまたは検閲するように呼び掛ける動向がある。けれども、サマリタンズはそのような取り組みにはある点において問題があり、現実的にでき ることについては限界があると考えている。

 第一に、多くの場合、ウェブサイト関連というのは海外に拠点を置いている。それらは地元の法律の下では合法かもしれない。もしインターネット・サービスプロバイダー(提供元)が、ブロック、または検閲しなければならない何かしらの理由があったり、またせざるを得ない場合には、技術的にイギリスのユーザーに対してはブロックすることができる。これは(逆に)ユーザーも簡単に避けることもできる。

 第二に、巨体なネットワークで情報を共有するインターネットの性質というのは、自殺と自殺方法の情報がほんの一部の特定のウェブサイト上だけでなく、公共のネットワークやファイルをシェアするサイト、ブログ、写真やビデオの共有サイト、そしてオンライン上で情報が共有される限り手に入るということだ。

4.
 自殺関連フォーラム、チャットルームは匿名性を保障しており、客観的にこれらのサイトでは自殺の討論が自由にできるので、自殺志向を含む悩みや絶望を持つ人が、誰かと話すために一人でよく訪れているということが見落とされているかもしれない。そして、これらのユーザーは自殺志向を奨励する人たち、あるいは自殺方法の情報などに影響される危険にさらされている。

 しかしながら 自殺フォーラムやチャットルームを使っている人々が増えているということは、安全なオンラインでのサポートサービスの需要が現在のところ満たされていないということを認めることが大事だ。

5.
 これらのことから、私達は気持ちの弱った人たちにサポートを広げることが、検閲を試みたり、自殺に関連した内容のオンラインをチェックしたりブロックするよりも効果的な取り組みだと強く思う。オンライン・サポートサービスの可能性は現在の時点では、あまりにも限界がある。

 私達は、弱っている人がオンラインで直接つながる新しい画期的な方法の開発が、人々が安全にインターネットでも感情的な気分の落ち込みを自由に言えることを可能にし、そのことによって感情面のサポートを得られ、危険な自殺フォーラムへのアクセスを減らすことになると信じる。

6.
 インターネットのユーザーが、ある種のウェブサイトにアクセスするのを防ごうとする検閲の仕方はあまり現実的ではない。けれども、有害な内容の有効性を減らし、支援のサイトを奨励するような自殺に関する責任ある行動を実施するために、とても有名なソーシャル・ネットワーク、サーチエンジン・プロバイダー、そしてニューメディア・アウトレットなど影響のある組織はまだ発展している。

 自殺または精神的な健康に関する事に関わっていない、少人数で運営されている多くの小規模なウェブサイトがあり、それは特別メンタル的なものに関わっていないウェブサイトであるにも関わらず、時々そこに死にたいと思っているユーザーが接触する可能性があるということを知っておくことも大事だ。それはサイト運営者が、そういう状況の時に何が最も適切な取るべき行動なのか、誰に助けを求めるたらよいのかを知ることは難しいとも言える。

 私達は、国立自殺予防戦略アドバイザーグループが小中規模のサイト運営者をサポートするために簡単にアクセスできるガイダンス(手引き)を開発する計画が実施されていることを歓迎する。

 利用の向上と、親のコントロール設定の使用は、自殺に関する最も危険なタイプの内容に子供のアクセスの増加を前もって防ぐことにいくらか成功しているかもしれない。けれども親のコントロール設定にはサポートする側のある種の項目も含まれていて、それすらもブロックしてしまうというリスクがある。(悪いサイトから守る為の)フィルタリングの提供元やプロバイダーは、自殺予防と心の健康を専門とする組織が決めた「ブロックする内容の適切な基準」の決定に従う必要がある。

【サマリタンズは自殺リスクのあるオンラインに何をしているのだろうか?】

7.
 近年、サマリタンズは率先して大手のオンライン組織と提携して自殺リスクのある人々をサポートするために仕事をしている。2010年11月の試みは、結果を検索するための新しい方法を打ち出しているグーグルと提携した。サマリタンズのヘルプライン番号と簡単で非常に目立つ電話の記号は、イギリスの人々が自殺に関する検索用語を使 うと普通のグーグルの検索結果の上に表示される。

 またサマリタンズのフェイスブックのページも、気持ちが落ち込んだ友達をどうやってサポートするか、たとえば誰かが悩んでいたり、どうやって難しい会話を始めたらいいのか等のアドバイスをしている。更にサマリタンズは現在、ツイッターやユーチューブを含む他の大手ソーシャルネットワークサイトなどと提携ができるか探している。

 手探りでありながらも、私達はより多くの気持ちが弱っている人々と直接オンラインチャンネルを通して関わり合うことができると思っている。それゆえ、私達は瞬時に示されるオンライン・メッセージサービスによってサマリタンズが上手く機能するかを調整し、自殺や自殺志向の人達が安全に交流できる適度なオンラインコミュニティの可能性を探したいと思っている。

 安全なオンラインの心からのサポート対策は、電話や対面するサービスと比べると、多くのユーザーにとって、接触の利便性、匿名性、極秘性、そしてコスト減など、障壁を下げ、個人の保護を含む表に現れない利益がある。人によっては親密な個人的問題について話すことは、彼らがオンラインのチャットを通じて話すより難しいかも知れない。特に電子技術と共に育っている若い人達はオンラインチャンネルの方が伝統的なヘルプラインサービスより適切で主流とみられる可能性が高い。
 デジタル時代においては、精神的な支援を提供するサマリタンズは、彼らに接触するために待っているのではなく、こちらから手を差し伸べるためのオンライン環境を活用する。

8.
 自殺とインターネットに関係する研究の証拠は今のところ非常に限られている。サマリタンズは現在ブリストル大学と提携し、臨床医から人々が自殺しようとした時、自殺関連のオンラインに接触したか、オンラインの調査や面接審査を含むデータをもらって調査を行っている。 その調査は健康政策省からの資金でサポートされており、2016年の11月に始められるべき事となっている。調査した見解は政治政策者、臨床医、インターネット業界に知られることにより根拠が確かなものとなっていくだろう。

出典:Home>Samaritans' policy and influencing work>Suicide and the online environment


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