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サマリタンズホームページより/24号

 

2020年1月22日発行

■寂しさ、自殺、そして若者

解題:ここに訳出したものは、サマリタンズが2019年1月に公表した「寂しさ、自殺、そして若者(Loneliness, suicide and young people)」と題するレポートの一部である。イギリスでは毎年多くの若者が自殺で命を落としているが、若者の自殺と孤独との間には関係があり、若者の自殺を減らすためには、若者が感じている孤独感に対処する必要があることが述べられている。若者が感じている孤独感や寂しさは、一般的には個人の問題と考えられがちだが、それを社会的に、かつ政治の問題として対処すべき事柄ととらえている点は、日本の私たちも大いに参考にすべきではないだろうか。


 寂しさは、私たちのほとんど誰もが人生のある時点で経験する気持ちである。私たちは群衆の中にいる時、仕事中に同僚といる時、そして友達や家族といる時に、寂しいと感じることがある。しかしこの寂しさがいつまでも続くものになると、それは私たちの健康と幸福に対する重大なリスクになる可能性がある。16歳から24歳までの若者は、それ以上の年齢の人々よりも寂しさをよりしばしば感じると報告している。

 寂しさも自殺も複雑である。寂しいと感じている若者すべてが自殺したくなるわけではないし、人が自らの命を絶つ決断をする上で寂しさが常に役割を果たすわけでもない。しかし、総人口というレベルで見ると自殺と孤独の間には関係があることを私たちは知っている。
 2017年に英国では、35歳以下の若者1588人が自殺した。しかし自殺は防ぐことができるものであり、「自殺する以外に道はない」と感ずる地点に若者が到達するようなことはあってはならない。未来の世代を守るためにも、なぜそれが起こり、それに対して私たちに何ができるのかについての私たちの理解を向上させることが、きわめて重要である。

 ここで述べられている重要な所見は、以下のものから得られたものだ。@文献の再検討、A人生のある時点で寂しさと自殺したい気持ちを感じたことがある250人の若者に対するオンライン調査、B15人の若者に対して行われた、寂しさと自殺願望の経験についての面談、C政策専門家との討議。


寂しさとは何だろうか?

 孤独は個人的な経験であり、異なる人々に対して異なる意味を持つ場合がある。たいていそれは、社会的な関係やつながりに対する私たちの期待がかなえられないときにわき起こる、いやな気持ちである。それとは対照的に、社会的孤立は私たちが持つ関係の量に関するものであり、一人の個人が持つ触れ合いの量によって客観的に測定できるものである。このように、人は孤立しつつ寂しさを感じないこともあれば、他者に囲まれていながら寂しいと感じることもある。このレポートは孤 立よりもむしろ孤独(寂しさ)に焦点を当てているが、それは、自殺との結びつきがより強いのが孤独であることが、調査から示唆されているからだ。

 私たちの面談に参加した人は全員が寂しさを体験してきているが、そういう時に彼らが感じていたのは、自分を理解してくれる人は一人もいないということであった。そんなとき彼らが感じていたのは、「自分は他者との間で意味のある、あるいは親密な関係を持っていない」とか、「自分にとって大切なことを話せる人が誰もいない」とか、「聴いてもらえているとか理解してもらえていると感じさせてくれる人が自分には誰もいない」という気持ちであった。さらに重要なことは、この経験が彼らに痛みと深い悲しみを引き起こすことである。 面談の参加者は全員が、人生の中で何度も寂しさを感じてきたが、それらの経験はしばしば非常に異なっており、その継続する時間の長さも、とる形態も様々であり、また人生の様々な経験と結びついているのであった。


所見と勧告

1)孤独は公衆衛生上の重大な問題(略)
2)個人とコミュニティーと社会的要因が互いに影響 し合いながら、若者の孤独を引き起こしている(略)
3)偏見(スティグマ)に取り組むことが、孤独な時に助 けを求めやすくする上できわめて重要である

 若者が自殺したいと思うような地点に到達するようなことはあってはならないことであり、彼らは偏見や評価にさらされる心配なしに困難な気持ちについて話すことができなくてはならない。しかし、援助を求めやすくすることは、若者が必要とする援助を彼らが必要とする時に利用できる場合にのみ可能になる。

 私たちのオンライン調査の参加者のうち38パーセントだけが、孤独感に対する助けや援助を求めたことがある。そのうちの大半は友達(49%)や家族(37%)に対して助けを求めている。約18%は精神衛生サービスや家庭医やセラピストに助けを求め、16%はサマリタンズに、10%は彼らが通う学校や大学に求めている。援助を求めることに対する多くの障害が明らかにされているが、中でも重要なものは偏見、怖れ、そして何をされるのかを知らないことである。これらは国家統計局による最近のデータと同じ結果を示しているが、それによると、子どもや若者にとって寂しさを認めることは恥ずかしいことであり、彼らは寂しさを「弱点」と見ているというのである。

 援助を求めやすくするためには、若者が求めたときに彼らが必要とする援助を手に入れることができなくてはならない。それゆえ、偏見に取り組むいかなる試みにも、同時に、若者のためにもっとも役立つサービスと援助への投資を増やすことが伴わなくてはならない。

 政府は、多くの若者が寂しさに関連して体験している偏見に取り組むために、全国的な啓蒙活動を展開すべきだ。すべてのコミュニケーションは理解しやすく年齢に応じたやり方で行われるべきであり、それは若者に合わせたやり方で、孤独と自殺の危険性がもっとも高い若者に届くことを目指して行われるべきだ。


4)孤独に立ち向かうためには、若者の福利を改善することに焦点を合わせるような、公衆衛生のアプローチをとることが重要である


 寂しさは誰にも同じものとして経験されるわけではなく、私たちは皆、社会的なつながりに対して異なったニーズと期待を持っている。それは、人生と私たちのコミュニティーの全体にわたる公衆衛生的アプローチを必要とするような、複雑な課題である。コミュニティーと個人のニーズに対応を合わせるためには、サービスの利用者と協力して共に創造することが大切である。他と切り離しては、孤独に立ち向かうことはできない。孤独は主観的な幸福の1つの尺度であり、そのためには若者の全般的な心の満足を改善することに焦点を合わせるような、全体論的なアプローチを必要とする。こうした全体論的アプローチはきわめて重要であり、それによってこそ自殺防止を含む他の政策課題の成果も得られるのだ。

 若者の孤独に取り組むために最も有効な介入方法を明らかにするためには、もっと多くの研究が必要である。そして、自殺や自殺未遂のリスクを減少させるためにはより多くの意味のある社会的つながりが重要だという私たちの知識の上に、そうした研究はなされることになる。とりわけ、家族に対する支援は、孤独と自殺リスクとの関係を緩和しうる。それゆえ、若者の孤独と取り組むための介入は、現存のコミュニティーの能力と人材を把握し利用できるようにするために、地方政府に委託すべきである。コミュニティー内のサービスを若者が利用できるよう援助するために、社会的な処方が医療専門家によって用いられるべきである。

 オンライン上のスペースも、若者に、状況に応じた安全な援助を提供する有益な機会を有している。これまでのサマリタンズによる研究が明らかにしてきたのは、自殺願望に対処するためにオンライン上の援助サービスを利用してきた人々が述べているのは、共感的で状況に応じた即時の援助をオンライン上で得ることによって彼らは利益を得てきた、ということであった。自殺願望を持ち、苦しい思いをしている個人にオンライン上で手を差し伸べる、大きな、しかしまだ実現されていない可能性が存在していることを私たちは見出してきた。オンライン上の情報や資料にアクセスすることで人々は、心の健康や、どうすれば援助が得られるのか、援助を必要とする人をどのように援助できるのか、についてよりよく理解できるようになる。

 心配なことは、私たちの調査に答えた多くの人たちが、コミュニティーや仲間集団の援助は、彼らがそれを必要としたときには得られなかったと思っていることだ。若い人々の福利を向上させることへの資金供給に優先順位をつけて守ることが、今やこれまで以上に重要になっている。しかしながら、地方当局に対する財源の削減とサービスへの需要の増大という全般的な状況を見るとき、なかなかそうは行かないことを私たちは知っている。非常に多くの若者が、援助を必要とするときに必要な援助を得られないでいる。

 政府は、孤独に対処するための公衆衛生財源を増やすべきだ。また、若者の間の社会的連携を最大限に促進するために財源をどのように分配すべきかに関する、地方の政策立案者のための指針を示すべきだ。
 政府は、若者の孤独をいかに減らすかについての更なる研究と、ネット上のソーシャル・メディアと孤独との関係をよりよく理解するための更なる研究の優先順位を上げるべきだ。
 地方の政策立案者は、若者のためのサービスを委託する場合には、社会的な処方を含む、公衆衛生のアプローチを採用すべきである。財源を分配する際には、若者の福利に寄与し、彼らの社会的連携を増大させ、現存のボランティア活動とコミュニティーの能力を活用するような活動に行き渡るようにすべきだ。
 政府と地方の政策立案者は、あらゆる介入は若者と共に、そして若者のために構想すること、そして、孤独をめぐる政策形成に若者が参加できるような公開討論の場を作ることを保証すべきだ。


5)学校と大学は、孤独の危機にある若者に手を差し 伸べる上できわめて重要な環境である

 寂しさはしばしば人生の一部であり得ることを、若者は知る必要がある。若者が孤独感を自覚し、うまく処理する技能を身に付けられるように、早い段階から学校ではリレーションシップ・エデュケーション(人間関係の教育)を行うべきである。これを行うためにカリキュラムには、@若者が孤独感に対処する方法を身に付ける助けとなるような技能、A孤独の受けとめ方を探求する技能、およびB他者とつながる方法を身に付け、意味のある関係を築く技能、を含めるべきである。またカリキュラムには、孤独感を感じた時にどこでどのように援助を求めるか、ついての情報も含めるべきだ。

 国家統計局による最近のデータが明らかにしたところでは、学校や大学への入学は、若者の孤独感を誘発しうる重要な転換点となる場合がある。同様に、私たちが面談した人のおよそ3分の2が、小学校や中学でも孤独を感じたと報告している。それゆえ、肯定的な情緒的・社会的福利を育成し発展させるためには、すべての学校と大学を対象とするアプローチがとられなくてはならない。政策に求められているのは、すべてのスタッフを援助して以下のような環境を作り出すことだ。それは、若者が自らの気持ちを自覚するために必要となる技能を身に付け、安心して助けを求められるような環境であり、また、孤独の引き金となり得るイジメなどの問題を真剣に受け止め、取り組む環境である。このアプローチは、リレーションシップ・エデュケーション(人間関係の教育)を教育の必須の部分となし、そして教育の場、とりわけ進学という困難な時期にいる若者に対して不可欠な援助を提供する上で、きわめて重要である。

 政府は、情緒的な福利に対するすべての学校と大学を対象としたアプローチを促進し、またリレーションシップ・エデュケーション(人間関係の教育)を、カリキュラムおよび教育体系と政策に組み込むことによって促進すべきだ。ここには、教員に対するトレーニング、学校査察制度および地方自殺防止計画が含まれるべきだ。


6)寂しさを医療の対象とみなすのは避けるべきだが、臨床的な支援はたぶん役立つだろう


 寂しさを感じているすべての若者が臨床的支援を必要とし、あるいは臨床的支援から恩恵をこうむるわけではないが、臨床的支援が役立つと評価された場合には、タイムリーかつ十分なケアを利用することはきわめて重要である。そしてそれが効果的になされるためには、このレポートが述べているような、幅広い社会的・文化的な変化を必要とする。

 孤独はしばしば、精神疾患といった他のリスク要因と相互作用することで、個人の自殺リスクを高める。孤独は、私たちの思考プロセスと知覚に作用することで、社会的関係を作り出し維持する私たちの能力にマイナスの影響を与える場合がある。寂しさを感じている人は、好ましくない社会的出来事に目を向ける傾向があり、その結果、社会に対して消極的な期待を持つようになる。こうした消極的な期待の結果、孤独な人々は、人を避けるような振る舞い方をするようになる。このようにして、これらの人々が体験しているしつこい孤独感の結果、こうした人は孤独のサイクルの中で動きがとれなくなることがある。情緒的な気付きを促したり、セラピーについて話し合うといった社会的認知に焦点を合わせるプログラムは、ある人にとってはこのサイクルを断ち切る上で有益な道を提供するかもしれない。

 面談に参加した多くの人が、心のケアを利用する際の困難さが、彼らの孤独感を引き起こす上で果たしている役割を強調している。すべての参加者が、過去においてか、あるいは今現在において、心の健康をめぐる難儀を経験していると報告している。精神疾患を現に抱えている参加者は、大学への進学という環境の変化はきわめて困難な事態だと言う。彼らはその変化に対処するために奮闘しているからだ。この変化は、心の健康に関して適切でタイムリーな援助を得ることにも影響を及ぼしている。残念なことに、彼らが経験していることは、国全体の問題の縮図となっている。きわめて多くの若者が長期間、臨床的支援を受けられずに待っており、またケアはしばしば、少年から成人への移行に伴って中断される。多くの若者が、支援を受ける上で必要とされる基準を満たさないからだ。

 さらに、自殺によって死亡した若者の40%が最近、何らかの機関と連絡を取っていたが、心のケアのための機関と連絡を取っていたのは、そのうちの26%だけだったことが、調査によって明らかになっている。このことが示唆しているのは、さまざまなサービスの間の協力関係にはムラがあり、また、若者が援助を得ている場合でさえ、自殺のリスクが常に認識され、取り組まれているとは限らないということだ。

 政府は、医療が必要だと判断された人が、効果的でタイムリーで適切な医療を利用しやすくなるように、若者の孤独に関する臨床的指針を公表すべきだ。


結 論


 孤独は、若者の自殺リスクを高める可能性のある、重要な公衆衛生上の問題である。それは、きわめて個人的であると同時に、若者が体験しているであろう他の多くの感情と結びつき、混ざり合っている。その結果、孤独を防ぐためには、若者が個人として、コミュニティー・レベルで、そして社会のレベルで社会的なつながりを築くことを援助するような、複雑な広がりを持つ介入を必要とする。ある人々にとっては臨床的な解決が有益かもしれないが、総人口レベルでいえば寂しさを治療対象と見なすことは避ける必要があり、そしてより広範な公衆衛生のアプローチをとる必要がある。すべての介入は、若者と共に・そして若者のために構想されるべきであり、その際には、もっとも大きなリスクを抱えた個人に届くことを目標にすべきである。

 その答えは、すべての年齢層にわたる強い社会的結びつきを持つ、強固なコミュニティーを築けるかどうかにかかっている。それは、若者が必要な支援を得ることができ、また私たち全員が、評価や偏見にさらされる恐れなしに相手に話を聴いてもらえる、そういうコミュニティーでなければならない。そうした変化を推進するために、孤独の問題に優先権を与え、それを国レベルの構想に統合することを急がねばならない。そしてそのためには、若者の情緒的な福利を改善する、新しい野心的な目標を立てねばならない。地方レベルではこれは、地方の公衆衛生財源のかなりの増額によってのみ可能となる。そうすることで、より結びつきの強いコミュニティーを築き、手遅れになる地点に若者が到達する前に、若者を援助するよう努めなくてはならない。

出典:Home> About Samaritans> Our policy and research>Young people and suicide>Loneliness,suicide and young people


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