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サマリタンズホームページより/27号

 

2021年3月27日発行

■コロナウィルスによるパンデミックの中で掛け手を理解するということ

解題:イギリスでは新型コロナの蔓延の中で厳しいロックダウンが行われているにもかかわらず、今や死者が10万人を超えるまでに至っている。その中でサマリタンズにかかってくる電話も、コロナに伴う失業、ロックダウンの中で家族と長い時間を過ごすことによる軋轢、精神疾患に対する援助が受けられなくなってしまったことなど、以前とは違う内容の電話が増えてきているという。今回は、そうしたパンデミックによる影響についての文章を訳出した。

1、コロナウィルスと中年男性

 ソーシャル・ディスタンスの規制が始まってからの9ヶ月間に、私たちは男性たちに対して、ほぼ70万回の援助を行ってきた。
 英国とアイルランドの中年男性は他のどのグループと比べても自殺率が高く、その傾向はここ数十年にわたって続いている。パンデミックのせいで経験することになった悲観的な人生の出来事(社会的な孤立、家族間の緊張、失業など)は自殺のリスク要因であるが、研究が示すところでは、それはとりわけ中年男性に対して影響を及ぼす可能性がある。
 これまでの研究によれば、最貧困地域に住んでいてあまり裕福でない男性は、豊かな地域のより裕福な男性に比べて、自殺によって命を落とす可能性が10倍大きいことが示されている。つまり、パンデミックによる長期的な経済的影響は、社会的・経済的にすでに恵まれない立場にある人びとに対して、最も大きな影響を及ぼす可能性が高いのだ。
 加えて、中年男性は女性に比べて、不景気によるマイナスの影響(そこには自殺のリスクも含まれる)に対して、より脆弱でもあることを私たちは知っている。仕事はコロナウィルスによってさまざまな形で影響を受けている。英国における失業率は上昇し、多くの人が収入の減少を経験し、何百万という労働者が一時帰休を強いられ、自営業者やゼロ時間契約(注)で働いている人の中には、仕事を削減されてしまった人もいる。失業者の増大はとりわけ影響が大きい。というのは、失業者の自殺率は雇用されている人と比べて顕著に高いからである。

男性たちとの対話からわかったこと
 男性たちとの対話から、3つの重要なテーマが明らかになった。

@孤独/孤立
 規制が始まってからの9ヶ月間で、男性は昨年の同時期と比べて、孤独や孤立に対する不安を高めてきている。多くの男性の掛け手が感じてきていることは、自分には話をする相手がいないとか、友達には頼れないとか、家族からの支えを失ってしまったとか、あるいは、身近な人に負担をかけたくない、というようなことである。
 ジム、パブ、屋内運動場、カフェといった施設が閉鎖されたことで、男性の掛け手のあいだで孤独感や孤立感が高まっている。というのは、彼らはそうした施設を訪れることで友人に会い、あるいはそうした場所によって自分たちのメンタル・ヘルスを支えてきたからである。そうした人びとの中には、寂しさをまぎらすためにドラッグや酒に頼っている人もいる。

   パブやスポーツ・イベントなどを中心にして動いていた社会生活が消えてしまったのです。たとえパブが開いていたとしても、仲間を見つけたり会ったりする経験ができなくなってしまいました。メールや電話で連絡を取るのが上手ではない人もいるので、そういう人はつながりがなくなってしまうんです。(電話ボランティアの感想)

A失業/資金繰り
 規制が始まって以来、仕事についての不安を語る男性からの通話が、6%から9%へと徐々に増えてきている。
 男性たちは将来に対する不安や頼りなさの気持ちを語っている。それは、今の生活水準を失うことであったり、失業や余剰人員の解雇に対する恐れであったり、自営業者にとっては仕事を失うことだったりする。冬に向かう日々の中では、これらの不安には、子どもにすてきなクリスマスを迎えさせてあげられないのではないかという心配も含まれている。雇用されなかったらどうしようという恥の感覚、家族を支えられないかもしれないという罪悪感、経済的支援についての知識がないことも、共通のテーマとして語られてきている。

B家族間の緊張
 家族関係が壊れてしまうかもしれないという心配、家族と顔を付き合わせて働くことによる窮屈さ、家族内の緊張の増大もまた、男性の掛け手に共通するテーマである。家族に関連した心配事も、男性の掛け手のあいだでより一般的なものになってきており、ロックダウンが宣言されたときに5本のうち1本だったものが、9月には4本のうち1本にまで増えてきている。

   関係が破綻したり、違う家族になったために子どもたちと離ればなれになっている男性たちは、もう子どもたちとは会えないかもしれないと感じています。あまりにも長い時間を共に過ごすことによって家族間に生じている緊張や、家の中にいなければならないことの結果、ちょっとした不平がエスカレートしがちになります。(電話ボランティアの感想)

 男性の中には今でも、困難に立ち向かっているときに助けを求めることを恥とみなす意識(stigma)があるのを、私たちは知っている。だから私たちは、生きていくのが大変なときには「聴くために私たちがここにいる」ことを男性たちに思い出してもらうために、「実在の人びとの本当の話(Real People, Real Stories)」を掲載している。

2、コロナウィルス、若者、そして自傷
 自傷は深刻な精神的苦痛のサインであり、自傷をする人が必ず次に自殺するという訳ではないにしても、自傷が自殺の有力なリスク要因であることは研究から明らかになっている。同時に、自傷が若者のあいだでかなり普通のことであることも 私たちは知っている。調査の結果明らかになっていることは若い女性の4人に1人、若い男性の10人に1人が、人生のある時点で自傷をしたことがあるということだ。2000年以降、若者のあいだで自傷の率が急上昇してきている。
 パンデミックになる前でさえ、自傷をした人たちは援助を得るために悪戦苦闘していたが、医療的・心理学的な援助を受けることができたのは自傷をした人の38%だけであった。初期の研究で明らかになっていたのは、若者、とりわけ若い女性が、パンデミックのあいだにメンタルヘルスの衰弱を、他の人びとに比べてずっと強く体験してきているということであった。私たちの研究の結果さらに明らかになったのは、より多くの若者が、パンデミックの結果としてもがいている可能性があるということだ。自傷の率がこれ以上高くなることを防ぎ、現に自傷している若者に対して効果的なケアを保障するために、若者に対する更なる援助が必要である。

若者たちとの対話からわかったこと
 規制が始まってからの9ヶ月間になされた若者たちとの対話から、4つ重要なテーマが明らかになった。

@対処する仕組みの喪失
 若者たちが語ってきたのは、パンデミック以前と比べて対処することが困難になったという感覚である。友達との個人的な付き合い、趣味、メンタルヘルスに関する援助の利用など、精神的な安定を維持するためにこれまで若者たちが用いてきた方法の多くが、ソーシャル・ディスタンスの規制が実施される中で利用しにくくなってきている。その結果として、若者のメンタルヘルスが痛手を受けているように見える。
 規制が続く中で、新たな対処の仕組みを開拓する困難が普通のことになってきている。家族から理解してもらえないと訴える若者や、苦しい時期に家族の負担になることを心配している若者たちからの電話を、多くのボランティアは受けてきている。
 過去9ヶ月間、自傷に関する精神的なサポートを求める連絡が増えてきていることを、私たちは目にしてきている。しかもそれはあらゆるグループにわたっているのだ。それがパンデミックのせいかどうかはわからないが、何人かのボランティアが言うには、より多くの若者が、他の対処の仕組みを利用できない結果、自傷したい気持ちに対処したり抵抗するためにサマリタンズに連絡してきているという。私たちはまた、コロナウィルスに関して特に心配している掛け手は、自傷について語る他の掛け手と比べて(26%対21%)、自傷に対して抵抗する傾向が強いことを知っている。

A仲間との触れ合いの欠如
 規制が始まって以来、多くのボランティアが受けてきたのは、友達との触れ合いを失ったばかりではなく、しばしば、いっしょに暮らしている家族との緊張した人間関係に悩んでいる若者からの電話だった。このことは、メンタルヘルス財団が行った初期の研究結果と一致しているが、それによると、英国における2200人の成人を対象にした調査では、若者は他のグループと比べてロックダウンの中で寂しさを感じやすく、その割合はほぼ2倍に上るという。規制が続く中で若者は、新しい人間関係を築けないことと、直接の触れ合いが失われた中でソーシャル・メディアに頼りすぎていることについての懸念を共有してきている。

B精神状態の悪化
 規制が続く中で、ボランティアたちは、メンタルヘルスに問題を抱えた若者たちから多くの電話を受けてきたが、若者たちのメンタルヘルスは、ロックダウンが始まったときと比べて一層深刻になってきているようだ。メンタルヘルスのサポートを受けられないことが若者たちの共通する悩みになってきているが、そこには、CAMHS(青少年のためのメンタルヘルス・サービス)による援助を受けるまでの待ち時間が長くなっていることも含まれている。多くの若者がボランティアに語るところでは、彼らはサービスに負担をかけることを恐れて、危機的状況になるまでサービスにアクセスすることを控え、その代わりに1人で何とかしようとしているという。
 このことは、Mind(英国とウェールズにおけるメンタルヘルス援助のための慈善団体)による調査結果と一致しているが、その調査によれば、3分の2以上(68%)の若者たちが、最初の全国的なロックダウンのあいだにメンタルヘルスが悪化したと答えているという。同調査によれば、英国における19歳の女性の3分の1、19歳男性の4分の1が、最初の全国的なロックダウンの中で抑うつ状態に陥ったことも示されている。

   多くの若者たちが不安で憂鬱だと言っていますが、それはパンデミックによって悪化しています。中には自傷していると話す人もいます。両親のそばでいい子でいようとすることで生じる問題も、パンデミックによって今や悪化してきています。(電話ボランティアの感想)

C希望がなく、当てにならない未来
 あらゆる年代に共通している心配事の一つは、未来に待ち受けているものに対する頼りなさと恐れ、不安である。これはとりわけ若者のあいだで共有されている不安であり、彼らの多くが、現在進行中の規制が彼らの仕事と教育に及ぼす影響について心配している。
 パンデミックの経済的な影響は、若者たちに対して不平等に降りかかってきている。5月上旬に行われて調査によれば、若者の3分の1が失業したり一時帰休を迫られているが、その割合はより年長の労働者のほぼ2倍である。現在進行中の地域的および全国的な規制は、多くの大卒でない若者が働く場(とりわけ小売業とサービス業)に非常に大きな影響を及ぼしてきている。

   一般中等教育修了試験(GCSE)および高校卒業資格試験(A-level)の結果に対する不安を口にする若者が増えています。大学生も、起きていることにショックを受け、おびえています。(電話ボランティアの感想)

3、精神疾患を抱えている人びととコロナウイルス
 精神疾患を抱えていることは自殺のリスク要因であり、そうした診断を受けている人はそうでない人と比べて、自殺で死ぬ可能性が5〜15倍高いことが知られている。さらに、最近の報告では、自殺で亡くなった人の10人のうち3人近く(28%)が、亡くなる前年に精神衛生サービスと連絡を取っていたことが明らかになっている。
 調査によると、規制が始まって以来、精神疾患の診断を受けた人は診断を受けていない人と比べて、自殺念慮や自傷、自殺未遂をする確率が3倍高く、夏にロックダウンが緩和されたときでさえ、そうだったという。

精神疾患を抱えた人びととの対話からわかったこと
 メンタルヘルスの問題は、規制が始まってからの9ヶ月間を通して掛け手のあいだで最も共通する懸念材料であり、それは掛け手の47%に影響を及ぼしている。メンタルヘルスについて不安を感じている人びとからの電話が増えきており、この人たちは他の掛け手と比べても24%対20%の割合で、コロナウィルスに対して特別な懸念を抱いている。
 規制が始まって以来のどの週をとっても、メンタルヘルスについて心配している人びとからの電話が、昨年の同時期と比べて多くなっている。メンタルヘルスについての不安の電話はロックダウンの開始とともに増加し、規制が継続しているあいだもその傾向は続いた。
 メンタルヘルスについての不安を述べる掛け手との対話の中から、3つの重要なテーマが共通のものとして浮上してきた。

@規制が、既にある精神疾患を悪化させている
 多くのボランティアが対話してきたのは、既に抱えている精神疾患が規制のために悪化してしまった掛け手だった。悪化したと掛け手が述べている精神疾患の中には、うつ病、不安、強迫性障害が含まれている。
 精神疾患を抱えている人びとは、他の人と比べて、敗北感、罠にかかったような気持ち、寂しさといった、心理的な自殺のリスク要因を体験しやすいことが調査の結果明らかになっている。サマリタンズの活動を通して私たちは、自殺念慮とメンタルヘルスのあいだに強いつながりがあることを知っている。規制が始まってからの最初の6ヶ月間に関する分析によれば、自殺念慮や自殺行動について語った掛け手の64%が、メンタルヘルス上の不安についても話しており、それは昨年の同時期と比べて一貫して高水準となっている。

   強い不安を抱えている多くの掛け手や、メンタルヘルス上の問題をどうにかこうにか処理している人びとは、症状の急変を体験してきています。それは対処することが難しく、再発や悪化につながるんです。(電話ボランティアの感想)

Aメンタルヘルス・サービスの利用の減少
 大部分のボランティアが対話している掛け手は、パンデミックが始まる以前に受けていたメンタルヘルス上の援助を利用できなくなってしまった人びとである。このことは最近の調査結果と一致しており、それによれば、規制が始まった最初の4ヶ月間に、英国における平均的な1週間の精神面でのケアの利用(診断、照会など)は、2017-2019年の同時期と比べて半分に減っているという。
 また多くの掛け手が感じていることは、メンタルヘルスに関する援助が得られたとしても、それが不十分だ、ということである。ボランティアたちが対話しているのは、今までとは異なるサービスの手段(Zoomによるセラピーなど)や、頼りにならないサービスに順応しなければならない掛け手たちである。多くの掛け手が、利用できるサービスをどのように検索すればよいかわからないという困惑や無力感について語っている。また、自分が期待するメンタルヘルスのサービスに折り合いをつけねばならない不安に圧倒されているとも感じている。

   サポート・チームから以前にも増して期待を裏切られているというのが、共通するテーマになっているようです。電話であれ訪問であれ、約束された連絡というものがなくなっているんです。人びとは長い待機リストに登載されていたり、メンタルヘルスの援助スタッフがCovidに罹って休んでしまったり、ストップしたりしています。一貫性がなく、完全な絶望感の中に取り残されているのです。(サマリタンズの電話ボランティア)

B社会的援助、コミュニティによる援助の利用の減少
 電話ボランティアたちが見出したのは、精神疾患を抱えている掛け手たちにとって、それまでメンタルヘルスを何とか維持するために用いてきた対処手段の一部が失われてしまったということであった。それはたとえば、友達や家族、地域のコミュニティ・グループからの援助とか、個人的な趣味といったことである。
 規制が続く中で、掛け手の中には家族からの援助にますます頼らねばならなくなり、それが理由で家族との関係に緊張が生じていると話す掛け手もいる。規制が始まってからの最初の6ヶ月間にサマリタンズはほぼ20万件に及ぶ、メンタルヘルスについて心配している人びとからの電話を受けてきたが、そこにはまた家族についての悩みも含まれていて、その割合は昨年と比べて5%増えている。

   知り合いの援助ワーカーや親しい隣人との対面での接触が失われたことで、不安や傷つきやすさ、ひどく雑に扱われているという気持ちが強くなっているんです。(電話ボランティアの感想)

注)
ゼロ時間契約とは、雇用主が個人の最低労働時間を保証せず、仕事があるときに提供するという契約形態


出典:Home>About samaritans>Our policy and research >Understanding our callers during the coronavirus pandemic


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